ケムオ

ケムオ/スモーカー
KEMUO / smoker

筋金入りの喫煙家・ケムオは、昨今の禁煙ブームや嫌煙運動なんかに屈しない。
いつだって正々堂々と自信満々に煙草をくゆらす。
肺を病んでいて、けむりを吸い込むとチクチク痛むが、おかまいなし。
煙草は彼の人生そのもの。

STORY

「フ〜〜」
この一服のためだけにオレは今まで生きてきたんじゃないかってくらい、目覚めの1本はうまいな。

いつものように大きく息を吸い込んで、脳みそまで煙を運んでやる。
じわじわと、体中が、そして脳が、新鮮な朝の空気とタバコの煙を吸収していく。
徐々に脳が覚醒し、意識がはっきりしてくる。
朝がきたな、と感じると共に、今日も生きているんだと実感する瞬間だ。

肺に鈍い痛みを感じるが、こんなのいつものことだ。
今となっちゃ、痛みを感じない日の方が何かあったんじゃないかと不安になるくらいさ。
1本のタバコに十分すぎるほどの時間をかけて吸い、立ち上る煙が朝日に揺らめくのをみて、やっとオレはベッドを降りる。
そして、いつものようにコーヒーメーカーのスイッチを入れ、ものすごい濃いコーヒーを2杯分入れる。

だが、オレは誰かと共に暮らしているわけじゃない。
別に、昨日の晩酔ったいきおいで、目と鼻と口だけついた、「とりあえず女です」ってのを売ってるような安い女を引っ掛けてきた訳でもない。

女ってやつは、コーヒーが苦いだの、ミルクがないだの砂糖入れたいだの、いちいちうるさいこと言いやがるから、すがすがしい朝には、もっとも不要なものだとオレは思っている。
どんなにいい女だって、夜が明ける前に帰って欲しいね。働くのは、夜だけで結構。
今までだって、朝まで居残った女でオレよりうまいコーヒーを作れた女なんてひとりもいやしなかった。

ごくっ。
なぜだか知らないが、コーヒー1杯分を作った時では出ない深みが、2杯分まとめて作ると出てきやがる。
朝の一服の煙の苦味が口の中に残っているままに、このコーヒーを流し込む。んー。たまらないね。この香り。

しゅぼっ。
そして、かぶせのもう1本。コーヒーと、タバコの混ざり合うこの香りが、たまらないんだ。
それに、朝の煙は輝いているんだぜ。朝日と混じった、この光。
やわらかいのに、どこか危険な香りをかもしだすんだ。何にも変えがたい魅力さ。

だから、オレは毎朝2杯のコーヒーを飲むのが日課になっちまった。
コーヒー2杯と、タバコ3本。あとは煙の美しささえあれば、おれは満腹なのさ。

おっと、忘れちゃいけないのが、これ。オレの命を預かってる、白い錠剤。
若い頃に肺を、ちょっとやっちまってね。かれこれ15年の付き合いになるかな。
こいつを忘れると大変さ。肺がいかれちまって、大好きなタバコが吸えなくなっちまう。
それだけじゃねぇ。タバコが吸えないってことは、オレにとっちゃ水が飲めないことくらい大変なことだからな。
死んじまうよ。1日だって我慢なんねぇ。

オレは約束を守らない性質だが、この薬をもらいにいく約束だけは破ったことがないのさ。
医者には「今すぐタバコをやめなければ、余命3年ですよ」なんつって脅かされもしたけど、やめたらやめたで、胃に穴は空くわ、飯ものどを通らずやせ細るわ、円形脱毛症になるわで、1週間で逆に死にかけたから、結局吸いだしたんだけどさ。

これが笑っちまうくらいに、けろっと治っちまいやんの。胃痛だの、拒食だの、なんだの。
タバコ吸ったらけろーっとね。その後も医者には何度も止められはしたんだけど、それでもタバコをやめねぇオレにあきれて、この錠剤治療に変更になったってわけだ。

ま、結局3年どころがあれから10年以上も生き延びてるってことは、オレにとってタバコは毒じゃないってことなんだろうけどな。

巷じゃ、「無病息災」なんていうが、人間、歳とりゃどこも悪くないなんてあり得ない。
だから「一病息災」で、悪いところと仲良くつきあいながら、ストレスなく生きる。これがオレの生き方さ。

「ぼく、タバコ吸うと肺が痛むんです。でもココロは和むんです」なんてな。

タバコはオレの万能薬さ。肺にとっては、ちとばかし、効力が強いってことよ。

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